




『伊良部島黒炭酸』は、2025年に誕生した沖縄県伊良部島の新進気鋭の飲料メーカー「伊良部島飲料」さんが手がけるクラフトコーラです。また、製造はクラフトコーラのOEM製造でも有名な鹿児島県の株式会社下園薩男商店さんが担当しています。
現在同社からは2種類のクラフトコーラがリリースされていますが、その設計思想は大きく異なります。本作「伊良部黒炭酸」は、地域性や特産色を徹底的に押し出した挑戦的な一本です。一方の「Irabujima Yellow Cola」が“王道のコーラらしさ”を追求したスタンダード路線であるのに対し、こちらは明確に個性へと舵を切っています。 まず目を引くのはラベルデザインです。石炭を思わせる荒々しい「黒炭酸」のグラフィックは、あえて整えすぎない質感によって、伊良部島の自然の力強さが伝わってくるようです。そこに鮮やかなグリーンの差し色が加わることで、重厚さの中にも爽やかさも感じさせる、印象的なビジュアルに仕上がっています。
原材料においても、その思想は明確です。Irabujima Yellow Colaと同様に、サトウキビ由来の甘味へのこだわりは徹底されています。伊良部島はサトウキビ栽培と製糖が盛んな土地であり、開発者自身もサトウキビの運搬に従事している背景を持ちます。同社のクラフトコーラは、まさにサトウキビから始まったプロジェクトと言っても過言ではありません。そして本作の原材料表示には「さとうきび」「きび糖」「黒蜜」「さとうきび酢」と並び、サトウキビを多角的に使い分けている点が特徴的です。
さらに特筆すべきは、クラフトコーラの核とされる「カルダモン」「シナモン」「クローブ」をあえて使用していないことです。これら三種は現在のクラフトコーラにおいて香味形成の中心的存在であり、ほぼすべてのメーカーが採用しています。それを“あえて”外すという選択には、明確な設計思想が感じられます。 これらのスパイスは主に輸入に頼る素材であり、原材料を国産で統一することは容易ではありません。地域色を重視する“ご当地系”クラフトコーラでも、実際に純国産に徹する例は稀です。本作はそうした課題に真正面から向き合い、伊良部島産・宮古島産をはじめとする沖縄由来の素材で構成されています。
さらにジャスミン茶葉や月桃といった沖縄らしい素材も採用し、スパイス要素としては生姜や唐辛子を用いるなど、独自の方向性を打ち出しています。 この大胆で柔軟な素材選択からは、作り手のクラフトコーラというジャンルへの深い理解と再解釈の意志がうかがえます。既存のクラフトコーラや“ご当地飲料”への一種のアンチテーゼを提示しているとも考えられるでしょう。 味わいは実に力強く、サトウキビの濃厚でナチュラルな甘味が前面に出ており、重厚な印象を与えます。バランス型のIrabujima Yellow Colaとは対照的で、設計思想の違いが明確に表れています。後味には生姜や唐辛子の辛味がしっかりと主張し、ピリピリとした刺激が残ります。
Irabujima Yellow Colaが“スパイスト”な調和型であったのに対し、本作は“スパイシー”な個性を押し出した一本と言えるでしょう。確かに味の好みだけで言えば、より万人向けなのはIrabujima Yellow Colaかもしれません。しかし『伊良部島黒炭酸』は、伊良部島や沖縄の風景そのものを想起させる力を持っています。 一言で表すなら、「飲む沖縄」。 土地の魅力も、荒々しさも、丸ごと抱き込んだような味わい。クラフトコーラの価値は決して美味しさだけでは測れないということを、あらためて思い出させてくれます。
これだからクラフトコーラは面白い。
今回『伊良部島黒炭酸』につきましては、「伊良部島飲料」さんよりご提供いただきました。この度は誠にありがとうございました!