「源流コーラ」を訪ねて。谷川岳とリンゴが生んだクラフトコーラの話【前編】

源流コーラ」を訪ねて。谷川岳とリンゴが生んだクラフトコーラの話【前編】

子どもの頃、群馬県にある「水上」という地名を、私は長いあいだ「すいじょう」と読んでいました。

鉄道好きだった私のお気に入りのビデオには、渋川から敷島、そして水上方面へと続く上越線の風景が何度も映っていました。小学5年生の頃、初めての一人旅でその景色を自分の目で見に行ったとき、水上は単なる観光地ではなく、画面の中の憧れを確かめに行く場所でした。それ以来、水上は私にとって少し特別な場所であり続けています。

だからこそ、その水上から「源流コーラ」というクラフトコーラが生まれたと知った時、私は素直に嬉しくなりました。今回は、源流コーラを手がける方々に水上を案内していただきながら、このクラフトコーラがどのように水上という土地と結びついているのかを伺いました。

1、福の屋さん前

今回の待ち合わせ場所は水上駅ではなく、隣の湯檜曽駅近くにある宿「福の屋」さんの前でした。前日に越後湯沢へ寄り、上越線を乗り継ぎながら南下してきた私は、「せっかくなら湯檜曽駅の旧駅跡も見ておきたい」と思い、この宿を取りました。

福の屋さんは2025年11月にリニューアルオープンしたそうで、部屋もお風呂もきれいで快適でした。周囲はとても静かで、ときおり近くの橋梁を列車が渡る音が聞こえてきます。ひとりで静かに過ごす時間が好きな私には、その環境がとても心地よく感じられました。

待ち合わせの時間になると、源流コーラを手がける「MINAKAMI CRAFT合同会社」のお二人が車で迎えに来てくれました。

2、車窓から

今回案内してくださったのは、MINAKAMI CRAFT合同会社のハヤトさんちかさんです(いずれも仮名)。

ハヤトさんは代表として、取引先とのやり取りや営業、事務作業など、事業全体の運営を担っています。一方、ちかさんは源流コーラのレシピ開発を手がけ、製造時の味の確認や調整、新しい商品のアイデア出しにも関わっています。

お忙しい中、取材を快くお引き受けいただきました。この場を借りて、あらためてお礼申し上げます。

* * *

空水(筆者):晴れてよかったです。昨日も昼間はだいぶ暑かったんですけど、明け方はけっこう冷えましたね。20度を下回るくらいでした。

ハヤトさん:そうですね。この時季は寒暖差がありますし、このあたりは朝晩けっこう冷えます。

空水:泊まった宿も最初は冷房を強めにしていたんですけど、今度は夜中に寒くなってしまって(笑)。

ハヤトさん:体調には気を付けてくださいね(笑)。

空水:前にこのあたりに来た時は2月だったので、一面雪でした。今とはだいぶ印象が違いますね。

ちかさん:そうですね。だいぶ夏らしい緑になってきました。これからもっと濃くなります。

空水:確かに、コーラの季節という感じがしますね。

3、車窓から2

車窓に山の緑が流れていくなか、やがて土合駅の近くを通りました。

空水:昨日、越後湯沢から上越線で来たんですけど、途中で土合駅に数十分停まったんです。駅のカフェでクラフトコーラを飲もうと思ったんですが、売り切れで(笑)。

ハヤトさん:あ、そうだったんですね。土合駅にある「駅茶モグラ」さんにも、源流コーラを卸しています。

空水:そうですよね。せっかくならお会いする前にもう一度飲んでおこうと思ったんですが。

ハヤトさん:ありがたいですね。ちょうど在庫が切れたタイミングだったのかもしれません。

4、谷川岳インフォメーションセンター

やがて車は、谷川岳インフォメーションセンターのある駐車場に到着しました。ここから谷川岳の麓のビュースポット「一ノ倉沢」までは、歩いて向かいます。一般車は通行できないため、一ノ倉沢までは徒歩で1時間ほどかかるそうです。

5、クマ出没注意

入り口では、「クマ出没注意」の看板を見つけました。最近はクマの出没がニュースになることも多く、少し身構えてしまいましたが、みなかみ出身のハヤトさんも、これまで実際にクマを見たことはないそうです。少し安心しました(笑)。

5、トレッキング

この日は気温もちょうどよく、深い緑の中を歩くのはとても気持ちのよい時間でした。道の両側にはブナの林が広がり、まだ雪の名残を思わせる冷たい空気もところどころに感じられます。このあたりは雪が非常に多く、木々は冬のあいだ雪の重みを受けるため、根元から曲がって成長する「根曲がり」という現象も見られるそうです。

5、トレッキング2

また、谷川岳周辺を含む群馬県みなかみ町エリアは「みなかみユネスコエコパーク」に登録されており、豊かな自然を守りながら、人の暮らしや観光と共生していく地域でもあります。そうした話を聞きながら歩いていると、ただ山道を進んでいるというより、水上という土地の成り立ちそのものに少しずつ近づいていくような感覚がありました。

そんな一ノ倉沢までの道すがら、源流コーラについていろいろとお話を伺いました。

* * *

空水:源流コーラは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。

ハヤトさん:最初は、みなかみで何かおいしいものを作れたらいいよね、という話から始まりました。いろいろ試していく中で、コーラなら手に取りやすい飲み物ですし、みなかみの素材も生かせるのではないかと思ったんです。

空水:そこで、みなかみのりんごを使うことになったのですね。

ハヤトさん:そうですね。みなかみは、青森や長野のように全国的に有名なりんごの産地というわけではないかもしれません。でも、地元の人間としては、みなかみのりんごはおいしいと思っていましたし、知っている方からは評価されているものでもあります。それをアピールできるものを作りたい、という気持ちがありました。

空水:実際に飲んだ時も、りんごの印象がかなり鮮やかでした。クラフトコーラというと、スパイス感が前面に出るものも多いですが、源流コーラは子どもでも飲みやすそうな味だと思いました。

ちかさん:源流コーラは、りんごの味わいをかなり大切にしています。スパイスの香りはありつつも、飲んだ時にフルーティーさがきちんと感じられるようにしています。

8、源流コーラ(シロップ)
源流コーラ(シロップ)

空水:シロップの製造も、自分たちで行っているのですよね。

ハヤトさん:はい。最初の試作の際は鍋で煮出して、ロートとおたまで一本一本瓶に入れるようなところから始まりました。今は設備を整えて、瓶詰めや殺菌まで自分たちで行っています。

ちかさん:製造の時は、りんごの果汁とスパイスのバランスを見ながら作っています。源流コーラは、りんごをそのまま粗く残すというより、飲みやすさを大切にしているので、シロップとしても比較的さらっとした仕上がりになっています。

空水:確かに、りんごを使ったクラフトコーラの中には、果肉感や食感をあえて残すものもありますよね。その点、源流コーラはかなりすっきりしています。

ハヤトさん:そうですね。もともと、将来的には炭酸飲料としても出したいという理想があったので、飲みやすさは意識していた部分かもしれません。もちろん、レシピを作る中で自然とそうなった面もあります。

空水:シロップという形だと、自宅で炭酸水やお湯で割って楽しむものになりますが、味の軸はかなりはっきりしていますね。

ちかさん:りんごの甘みと香りがあるので、炭酸で割ると爽やかですし、寒い時期にはお湯で割っても楽しめます。スパイスも入っているので、ホットでも相性はいいと思います。

ハヤトさん:源流コーラは、ただクラフトコーラを作りたかったというより、みなかみの良さを形にしたいという思いから始まっています。りんごも、水も、山も、雪も、この土地のイメージにつながるものです。その入口として、まずはこの一本があるのかなと思っています。

9、源流コーラシロップ、斜め45度
斜めから見た源流コーラシロップ

空水:源流コーラのシロップ瓶のラベルを最初に見た時、ユニークな使い方をしていると思いました。この瓶は斜め45度くらいにすると、ちょうど山の形がきれいに見えますよね。

ハヤトさん:そうなんです。実はその向きが、デザインとしての正面なんです。

空水:やっぱりそうなんですね。四角い瓶なので、普通に置くと一面が正面に見えますけど、斜めにすると山のシルエットが立ち上がる感じがして、面白いなと思いました。

ハヤトさん:この山の形は、谷川岳をイメージしています。谷川岳は山頂が一つではなく、「トマの耳」と「オキの耳」という二つの頂を持つ双耳峰なんです。その形を、ラベルの山のモチーフに落とし込んでいます。

ちかさん:山のデザインには、水面のような模様も入れています。みなかみは利根川の源流域でもありますし、山と水の印象をラベルの中に入れたかったんです。

空水:なるほど。源流コーラという名前とも、かなりつながっていますね。谷川岳と水の町としてのみなかみが、瓶の形やラベルの見せ方にも入っている。

ハヤトさん:そうですね。店頭に置いていただく時も、できれば斜めに置いた方がかっこいいんですけど、実際には棚の都合もあるので、なかなか難しいところもあります(笑)。

空水:でも、その“斜めが正面”というのはかなり印象に残ります。クラフトコーラの瓶はたくさん見てきましたけど、こういう見せ方は珍しいと思いました。

ちかさん:はい。源流コーラは、単にりんごを使ったコーラというだけではなくて、みなかみという土地のイメージを伝えるものにしたいと思っています。だからこそ、名前や味だけでなく、デザインにもその雰囲気を込めています。

10、一ノ倉

そんな話を聞きながら歩いているうちに、道の先の木々が少しずつ開けてきました。やがて目の前に現れたのは、谷川岳の岩壁が大きく迫る一ノ倉沢の風景でした。

一ノ倉は、谷川岳を代表する岩場のひとつです。このあたりでは岩や岩壁のことを「クラ」と呼び、谷川連峰随一の岩場であることから「一ノ倉」と名付けられたそうです。また、日本アルプスの剱岳、穂高岳とともに「日本三大岩場」として知られているとのこと。目の前にそびえる岩壁を見ると、その名にふさわしい迫力があります。

11、一ノ倉2

険しい岩肌と、足元を流れる沢、周囲を包む深い緑。源流コーラのラベルに描かれた山と水のイメージが、この風景と自然に重なって見えました。

私は子どもの頃から水上という土地を知っていましたし、これまでにも何度も訪れてきました。けれども、その多くは鉄道が好きだったからこその旅でした。源流コーラがなければ、一ノ倉沢まで足を運ぶことはなく、この雄大な景色を一生知らないままだったかもしれません。水上を知っているつもりでいても、私が見ていたのはその一部分に過ぎなかったのだと、あらためて感じました。

源流コーラという一本のクラフトコーラをきっかけに、作り手の方々に案内していただき、谷川岳の麓を歩き、ラベルに込められた意味を風景の中で確かめる。クラフトコーラは、飲み物でありながら、時にその土地への入口にもなります。源流コーラを通じて、水上の違った豊かさに触れることができたことは、私にとってとても幸せな体験でした。

12、電気バス

さて、正直なところ体力に自信のない私は、「一ノ倉沢からまた1時間歩いて戻るのか……」という気持ちになっていました。しかしありがたいことに、一ノ倉沢から、谷川岳インフォメーションセンターに近い谷川岳山岳資料館付近までは、電気バスが運行されています。マイカーでは入れない道ですが、このバスに乗れば帰りは約20分です。

なお、この電気バスは先着順で、乗車できる人数にも限りがあります。私が乗った時は14人までとのことでしたので、利用を考えている方は、現地で運行状況や乗車方法を確認しておくのがおすすめです。行きは深緑の中を歩き、帰りはガイドの方の説明を聞きながら、楽に戻ることができました(笑)。

後編に続きます。

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